【中学受験の疑問】父親は、なぜ他人事なのか?――“味方不在”が家庭を壊す
■涙が止まらなかった、夫のひとこと
「夫から“お前が好きでやってるんだろ”と言われたとき、
涙が止まりませんでした」
これは、あるお母様から実際に伺った言葉です。
家庭でひとり、中学受験を背負い続けた末に、
夫からそんな言葉を投げかけられたとき、
心が折れてしまったと言います。
夫には悪気はなかったのかもしれません。
しかし、実際には多くの家庭で、
中学受験の“温度差”が夫婦の関係を静かにむしばんでいるのが現実です。
私自身、以前大手の集団塾に勤めていたとき、
中学受験を終えた直後に離婚されるご家庭を何度も見てきました。
合格した・しないに関係なく、「受験の過程」で夫婦がすれ違い、信頼関係が壊れてしまう。
それほどまでに中学受験は、家族にとって重大な出来事なのです。
■中学受験は「母親の方が向いている」?
たしかに、母親の方が子どもの様子に敏感で、
学習内容にも細かく目を配ることができます。
「中学受験は母親の方が向いている」
――そう言われれば、そうかもしれません。
でも、それは“母親だけがすべて背負うべき”という意味ではないはずです。
実際、多くの家庭で中学受験は「母親の孤独な戦い」になっています。
では、なぜこうなってしまうのか。
■父親には「見えていない」中学受験の現実
父親は中学受験を経験していない。
自分の成功体験である大学受験と比べてしまう。
でも、12歳の子どもと18歳の自分では、心の成熟度がまったく違う。
だからこそ、母親の焦りや不安、葛藤が伝わらない。
「妻が勝手に始めたことだから」
「勉強くらい本人がやればいい」
「受からなきゃ高校からでいいじゃないか」
「そもそも中学受験には反対だった」
そんな言葉が、母親の心をますます追い詰めていきます。
■母親が“狂気”に見えるのは、正常な反応
泣きたい夜もある。
ヒステリックになる日もある。
子どもにきつく当たってしまって、自己嫌悪に陥ることもある。
でも、それはすべて――
「子どものために、どうにかしてあげたい」という、母親としての本気です。
狂気に見えるのではなく、誰よりも真剣だからこそなのです。
■家庭のバランスが崩れていく瞬間
母親が頑張れば頑張るほど、家庭内のバランスは傾いていきます。
- 子どもへの過干渉
- 夫婦間のすれ違い
- 家庭に重たい空気が流れ出す
この“家庭内失調症”こそ、中学受験の本当のリスクです。
そして一番つらいのは、本来は守ってあげたいはずの子どもたちです。
■“味方がいる”という安心が母親を救う
受験そのものが過酷なのではありません。
味方がいないことが、母親を苦しめているのです。
- 夫がただ話を「聞いて」くれたら。
- 子どもの勉強に少しでも「関心」を持ってくれたら。
- 「頑張ってるよ」と言ってくれたら。
それだけで、母親は涙が出るほど救われるのです。
■最近では、一緒に戦う父親も増えてきた
最近は、共に受験に臨む“父親”も増えてきました。
イクメンと同じように、“ジュケメン”という言葉が生まれても不思議ではないほどです。
子どもにとっても、
「お父さんも自分を応援してくれてる」と感じることは、
とても大きな安心感になります。
■どうすれば“父親を味方”にできるのか?
――母親のための「巻き込みステップ3つ」
「夫にももっと関わってほしい」
「私ばっかり背負っているのがつらい」
そう感じているお母様へ、
父親を“受験チーム”に加えるための3つの工夫をご紹介します。
ステップ①:「情報共有」から始める
いきなり「もっと手伝って!」と言うと、父親は構えてしまいます。
まずは、小さな“相談”から。
- 「今日、塾でこんなことがあったんだけど」
- 「志望校、子どもは●●って言ってるの。どう思う?」
“報告”より“相談”のスタンスが、父親のスイッチを入れます。
ステップ②:「役割」を明確に伝える
「何かして」ではなく、「これをお願い」と具体的に。
- 「土曜の送り迎えだけお願いできる?」
- 「説明会、一緒に行ってほしいな」
- 「志望校のパンフレット、読んでくれたら嬉しい」
“限定的”かつ“明確”な依頼が、父親を動かします。
ステップ③:「感謝」を伝える
父親が何かしてくれたら、まずは一言――
「ありがとう、助かったわ」
このひとことが、父親にとっては大きな原動力になります。
父親は単純です。でも、それでいいのです。
“味方になった実感”が、継続的な協力につながっていきます。
■巻き込む際に、気をつけたいこと
ただし、父親を巻き込むときに注意したいポイントもあります。
- 会社の部下のように、子どもを「管理」しはじめてしまうことがある
- 「他の家庭ではもっとやってるのに」と、比較しない方がいい
父親には父親のやり方、ペースがあります。
「自分の言葉で届いた」「自分の意思で関わっている」と思えることが、
継続的な協力を生む鍵です。
無理やりではなく、自然と“巻き込まれていく”関係づくりを目指しましょう。
■「ひとりで背負わない覚悟」が、家族を守る
中学受験は、家庭全体のプロジェクトです。
誰かが壊れてしまったら、受験も家族も崩れてしまいます。
だからこそ――
「ひとりでやらない」覚悟を。
そして、その第一歩が、
“父親を味方にすること”です。
すべての母親に、エールを込めて。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
では、また!
中学受験カウンセラー野田英夫でした。